第3回日本フェノロサ学会 学会賞
【第3回日本フェノロサ学会 学会賞(フェノロサ賞)
・特別功労賞(ビゲロー賞)】
学会賞(フェノロサ賞)
橘しづゑ氏(博士(人間文化科学))
受賞対象:著作 橘しづゑ著『ボストン美術館富田幸次郎50年 たとえ国賊と呼ばれても』(彩流社、2022年5月)
選考理由:本書は、アメリカ、ボストン美術館に中国・日本美術部長を戦前から戦後まで32年間勤めた人物、富田幸次郎(1890―1976)の経歴や業績を探り、「ボストン日本古美術展覧会」開催ほか、その後の日米文化交流の道を新たに切り拓いた知らざる人物の歩みを明らかにしたものである。明治23(1890)年、蒔絵師の大家、富田幸七の長男として京都市に生まれた富田は 明治39(1906)年、京都市立美術工芸学校専攻科在籍中に農商務省海外実業練習生に選ばれ、室内装飾を学ぶためボストンに留学。ボストン美術館顧問であった岡倉天心に会い、天心から美術館嘱託を勧められて以降、富田は公私にわたって天心の側近として、天心の精神、美学を学んだ。メトロポリタン美術館やハーバード大学でも研鑽を積み、海外実業練習生を終了後もボストンに残り、大正2(1913)年の天心逝去後、その志を受け継ぎ、キュレーター、副部長、部長を歴任し昭和38(1963)年に73歳で退くまで、55年間にもわたりボストン美術館に勤めた。そして、翌年には来日し、天心の遺品、遺稿を茨城大学五浦文化研究所に寄贈した。本書は富田の評伝を通してその人となりや、その間の日米関係の変化と美術コレクションを巡る状況について、自ら集めた資料を元にリアルに描き、富田の晩年を知る日米の関係者から散逸する可能性の高い資料を求めつつ、検証して書かれた筆者の博士論文『富田幸次郎研究―日米文化交流における役割』を基に出版された。特に、日本国内でこれまで正当な評価をされなかったその理由を探り、再評価した意義は大きく、フェノロサ、天心研究の領域を拡大し、新たな視点を取り入れた優れた研究書として、ここに高く評価するものである。
受賞者略歴:橘 しづゑ(タチバナ シヅエ) 1954年、静岡県生まれ。長年、茶道と花道の研鑽を続ける。50歳を過ぎ、それらの学問的な裏付けの必要性を感じ、東京女子大学現代文化学部に編入し社会人学生となる。1990年代、夫の赴任に伴い家族で1年間ボストンに住み、豪華絢爛なボストン美術館の日本コレクションに驚いた経験をもつ。学部卒業論文ではボストン美術館アジア部長であった富田幸次郎をとりあげる。大学院時代には、二度の渡米調査を試みつつ独自に調査を重ね、博士論文『富田幸次郎研究──日米文化交流における役割』を執筆。東京女子大学大学院人間科学研究科修了。博士(人間文化科学)。


特別功労賞(ビゲロー賞)
外川昌彦氏(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授)
受賞者:外川昌彦(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授)
受賞対象:著作 外川昌彦著『岡倉天心とインド―「アジアは一つ」が生まれるまで』(慶應義塾大学出版会、2023年4月)
選考理由:本書は岡倉とインドに関わる研究を網羅的に俯瞰し、なおかつベンガル語文献を含む様々な資料を渉猟した上に打ち立てられた優れた分野横断的研究書である。美術行政家、美術史家、そして思想家として様々に語られる岡倉天心像について、本書はインドにおける岡倉に焦点を当て論じるが、そこでの事績を追うだけではない。近代インドの宗教改革運動家スワーミー・ヴィヴェーカーナンダとの交わりを、植民地支配下のインドに照らして詳らかにし、『東洋の理想』を手掛かりにして岡倉のインド体験の意義を検証するものである。特に、東京大学でフェノロサに学びその影響下にあった岡倉のインド美術史観が、インド訪問後に転向したことに着目し、岡倉が、フェノロサの説く日本美術のギリシア系統説を否定し、アジア美術の独自の発展を構想する視点に転換したことを丹念な検証により解明している。著者の観点は、フェノロサを通した西洋思想を始め、イギリス植民地支配下のインド社会と宗教や美術史など諸説を網羅した上で、インドを接点に岡倉とヴィヴェーカーナンダの関係を多面的に読み解いている。岡倉のインドでの活動は近年明らかにされているが、本書は文化人類学、宗教学を軸に幅広い学術的射程を有するインド研究にもとづいた岡倉天心論であるともに、フェノロサの東洋美術史観の究明に貢献する優れた研究書としてここに高く評価するものである。
受賞者略歴: 外川昌彦(トガワマサヒコ)東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授。1964年生まれ。1992-97年にインドに留学し、ベンガルの農村社会で住み込み調査を行う。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。主な著書にAn Abode of the Goddess: Kingship, Caste and Sacrificial Organization in a Bengal Village, Manohar Publication, (2006)。主な共著書にMinorities and the State: Changing Social and Political Landscape of Bengal, SAGA Publications, (2011)など。



今年度授賞者と岡部会長

授賞挨拶をする橘しずゑ氏

授賞挨拶をする外川昌彦氏
・特別功労賞(ビゲロー賞)】
学会賞(フェノロサ賞)
橘しづゑ氏(博士(人間文化科学))
受賞対象:著作 橘しづゑ著『ボストン美術館富田幸次郎50年 たとえ国賊と呼ばれても』(彩流社、2022年5月)
選考理由:本書は、アメリカ、ボストン美術館に中国・日本美術部長を戦前から戦後まで32年間勤めた人物、富田幸次郎(1890―1976)の経歴や業績を探り、「ボストン日本古美術展覧会」開催ほか、その後の日米文化交流の道を新たに切り拓いた知らざる人物の歩みを明らかにしたものである。明治23(1890)年、蒔絵師の大家、富田幸七の長男として京都市に生まれた富田は 明治39(1906)年、京都市立美術工芸学校専攻科在籍中に農商務省海外実業練習生に選ばれ、室内装飾を学ぶためボストンに留学。ボストン美術館顧問であった岡倉天心に会い、天心から美術館嘱託を勧められて以降、富田は公私にわたって天心の側近として、天心の精神、美学を学んだ。メトロポリタン美術館やハーバード大学でも研鑽を積み、海外実業練習生を終了後もボストンに残り、大正2(1913)年の天心逝去後、その志を受け継ぎ、キュレーター、副部長、部長を歴任し昭和38(1963)年に73歳で退くまで、55年間にもわたりボストン美術館に勤めた。そして、翌年には来日し、天心の遺品、遺稿を茨城大学五浦文化研究所に寄贈した。本書は富田の評伝を通してその人となりや、その間の日米関係の変化と美術コレクションを巡る状況について、自ら集めた資料を元にリアルに描き、富田の晩年を知る日米の関係者から散逸する可能性の高い資料を求めつつ、検証して書かれた筆者の博士論文『富田幸次郎研究―日米文化交流における役割』を基に出版された。特に、日本国内でこれまで正当な評価をされなかったその理由を探り、再評価した意義は大きく、フェノロサ、天心研究の領域を拡大し、新たな視点を取り入れた優れた研究書として、ここに高く評価するものである。
受賞者略歴:橘 しづゑ(タチバナ シヅエ) 1954年、静岡県生まれ。長年、茶道と花道の研鑽を続ける。50歳を過ぎ、それらの学問的な裏付けの必要性を感じ、東京女子大学現代文化学部に編入し社会人学生となる。1990年代、夫の赴任に伴い家族で1年間ボストンに住み、豪華絢爛なボストン美術館の日本コレクションに驚いた経験をもつ。学部卒業論文ではボストン美術館アジア部長であった富田幸次郎をとりあげる。大学院時代には、二度の渡米調査を試みつつ独自に調査を重ね、博士論文『富田幸次郎研究──日米文化交流における役割』を執筆。東京女子大学大学院人間科学研究科修了。博士(人間文化科学)。
特別功労賞(ビゲロー賞)
外川昌彦氏(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授)
受賞者:外川昌彦(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授)
受賞対象:著作 外川昌彦著『岡倉天心とインド―「アジアは一つ」が生まれるまで』(慶應義塾大学出版会、2023年4月)
選考理由:本書は岡倉とインドに関わる研究を網羅的に俯瞰し、なおかつベンガル語文献を含む様々な資料を渉猟した上に打ち立てられた優れた分野横断的研究書である。美術行政家、美術史家、そして思想家として様々に語られる岡倉天心像について、本書はインドにおける岡倉に焦点を当て論じるが、そこでの事績を追うだけではない。近代インドの宗教改革運動家スワーミー・ヴィヴェーカーナンダとの交わりを、植民地支配下のインドに照らして詳らかにし、『東洋の理想』を手掛かりにして岡倉のインド体験の意義を検証するものである。特に、東京大学でフェノロサに学びその影響下にあった岡倉のインド美術史観が、インド訪問後に転向したことに着目し、岡倉が、フェノロサの説く日本美術のギリシア系統説を否定し、アジア美術の独自の発展を構想する視点に転換したことを丹念な検証により解明している。著者の観点は、フェノロサを通した西洋思想を始め、イギリス植民地支配下のインド社会と宗教や美術史など諸説を網羅した上で、インドを接点に岡倉とヴィヴェーカーナンダの関係を多面的に読み解いている。岡倉のインドでの活動は近年明らかにされているが、本書は文化人類学、宗教学を軸に幅広い学術的射程を有するインド研究にもとづいた岡倉天心論であるともに、フェノロサの東洋美術史観の究明に貢献する優れた研究書としてここに高く評価するものである。
受賞者略歴: 外川昌彦(トガワマサヒコ)東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授。1964年生まれ。1992-97年にインドに留学し、ベンガルの農村社会で住み込み調査を行う。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。主な著書にAn Abode of the Goddess: Kingship, Caste and Sacrificial Organization in a Bengal Village, Manohar Publication, (2006)。主な共著書にMinorities and the State: Changing Social and Political Landscape of Bengal, SAGA Publications, (2011)など。
今年度授賞者と岡部会長
授賞挨拶をする橘しずゑ氏
授賞挨拶をする外川昌彦氏


